甘美な蜜のプワゾン
風薫る5月。
爽やかな晴天をも味方に付けたはず。
15年の中で5年もの間、温めてきた恋。
花の高校生活を大好きな人と送りたい。
その一大決心が、その淡い恋心が、ものの見事に秒殺された。
しかも最後まで言わせてもらえなかった理不尽さ。
そのせいなのか、当の本人は突然すぎて思考がついていかない。
「えっと……隼人? ごめんって……」
「本当にごめん! 蘭の事は好きだよ? その……蘭みたいなめちゃくちゃ綺麗な子から、告られるなんて夢のようだしさ。でも……やっぱ付き合うのは……ムリだよ」
「それって、もしかして……私の家の事が関係してる?」
そう蘭が問いかけると、隼人は気まずそうに目を逸らして頷く。
「……」
ショックだった。
隼人だけは違う、そう思ってた……。
小学校からの付き合いで、いつも元気でクラスではリーダー的存在。
彼の周りでは笑顔も絶えず、一人でいる子にも気さくに話しかけるような男の子だった。
中学でももちろんそんな隼人は人気があった。
だから隼人を好きになってしまうのも、当然と言える程だった。
だけど、それを裏切られた気がして、悔しくて悲しくて蘭は震える唇を噛んだ。
まだ嫌いだとか、タイプではないと言われた方が良かったのかもしれないとさえ思う。
「蘭……ごめんな……。でもオレは普通の恋がしたいんだ……」
「普通の恋……」
その言葉に、蘭の中で一気に冷えていくものを感じた。
5年も想い続けてきた恋が、こうも一瞬でバラバラと崩れてしまうのかと思う程に。