甘美な蜜のプワゾン
放課後になり、皆が一斉に帰る中、蘭は1人中庭へと駆け出していた。

今日も居るかは分からない。
だけど、もう一度会ってお礼を言いたかった。

「あ、蘭?」

すれ違い様に名前を呼ばれ、振り向いた蘭の目は大きく見開かれた。

「あ……隼人」

名前を呼ぶと隼人は一瞬気まずそうな顔を見せたが、直ぐに満面の笑みを向けてきた。

「そんなに急いでどこ行くの?」

「あー……うん、ちょっとね」

「そっか。じゃあ、気をつけてね」

「う、うん。隼人も」

お互い手を振り合ってその場を後にする。

振った人間が気楽に声を掛けてくるなんて、もしかしたら無神経と言う人もいるのかもしれない。

だけど、隼人もきっと勇気を絞って蘭に声を掛けたに違いない。

それは蘭の気まずさを解消させる為に、わざと当たり障りのない会話で、声を掛けてきたのだろう。

そのお陰か、蘭の中では気持ちが楽になっていた。

これで、本当の意味で蘭の気持ちはリセットされたんだと、実感するのだった……。
< 24 / 68 >

この作品をシェア

pagetop