甘美な蜜のプワゾン
中庭まで走ってきた蘭は素早く辺りを見渡す。

(誰もいない……)

あの芝生も無人だった。

蘭はローズアーチに視線を遣った。
その先は一般生徒の立ち入りは禁止とされている。
そんな場所にいるとは思えないが……。

しかも見つかればペナルティを課せられる。

(ちょっとだけだから……)

蘭は緊張で速まる鼓動を落ち着かせようと深呼吸をして、もう一度周囲に注意を払ってから、一気にアーチを走り抜けた。

こういう事は何事も思い切りが肝心。
見つかった時は見つかった時、と蘭は自らを奮い立たせた。

辿り着いたのは見事なローズガーデン。

(凄い……綺麗……)

感嘆のため息が漏れる。

遊歩道には白いベンチが何脚か設置もしてあった。
こんな綺麗な場所を開放しないのは、非常にもったいないと強く思う。

ごく限られた人しか見れないなんて……と。
でもやはり、心無い生徒たちによって、綺麗な花たちがイタズラされるのは困るのも事実だ。

「ここは、立ち入り禁止だよ」

「っ!」

呆然としていた蘭は驚きのあまり、無様なほどに身体が跳ね上がった。

いきなり見つかった事で、一気に冷や汗が流れていく。

「す、すみません! 直ぐに立ち去ります!」

振り向き様に頭を深く下げた。
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