甘美な蜜のプワゾン
何故か振りほどけない身体。
まるで金縛りにあったかのように微動だに出来ず、蘭は金魚のように口で喘ぐしかない。

「ダメ?」

甘えた声音。
耳元で囁く悪魔の美声がダイレクトに脳内に響く。

「ダ、ダメに決まってます! そ、そんなキス……だなんて……」

「頬っぺたなんだけど」

「は!? え……?」

(頬っぺた?)

拍子抜け。
蘭は間抜けな顔を晒して暫く呆然としてしまう。

「あれ? もしかして、何か期待した?」

不敵に上がる口角。
それを見た蘭の頭に、カッと血がのぼった。

「き、期待なんかしてませんし! そもそも頬っぺただってダメに決まってます!」

太郎の腕から逃げ出した蘭は肩で息を弾ませる。

「ふぅん。でも、そのわりにはなんかガッカリしてない?」

「してません」

「へぇ」

「……」

(ダメだ。これ以上は相手にしない方がいい)

蘭は軽く息を吐くと、太郎を真っ直ぐ見据えた。
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