甘美な蜜のプワゾン
「太郎先輩、私はそろそろ帰り――」

「……ろう!」

「え?」

蘭と太郎は同時に顔を見合わす。

「太郎! 何処にいる!」

「やべっ。右京だ」

(名村先輩!? それはヤバい! ヤバすぎる!)

右往左往する蘭の手を太郎は迷わず取ってきた。

「え? 太郎先輩……?」

「見つかったらやべぇだろ。隠れるぞ」

力強い腕に引っ張られながら、ローズガーデンを走る。

ミルクティ色に輝く髪がふわりと靡くたびに、ローズとは違う甘い香りが漂う。

大きな背中を見ながら、妙に戸惑う蘭がいた。

「ここならまだマシか」

薔薇が咲き乱れる茂みに少しの空間があった。
太郎はローズアーチを一度見てから、突然蘭の身体を抱き上げた。

「きゃっ! た、太郎先輩!?」

「しっ、黙って」

蘭を先に降ろしてから、何故か太郎まで軽々と薔薇を飛び越えきた。

お陰で狭い場所に2人密着する形となってしまった。

太郎が蘭を胸に抱く格好で、蹲(うずくま)っているため、太郎の胸元に耳が貼りつく。

走ったせいで早い太郎の鼓動が伝わり、蘭は赤面してしまう自分の顔を必死に隠した。
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