甘美な蜜のプワゾン
「太郎、いないのか!」

徐々に声が近付いてくる。
遊歩道は直線ではなく、カーブがあったりとで湾曲な造りとなっている。

だから、2人が隠れたところまでは見られてない。
見られてはいないが……。

(先輩まで隠れる必要ないんじゃ……。これ以上こんな状態なら確実死んでしまうよ)

甘い香りさえも官能的で、さっきからフル回転の心臓はもう限界だった。

「右京の奴、諦め悪ぃ……」

不意に呟かれた声が、蘭の鼓膜を直に震わせ、身体に痺れが走った。

「……っ」

蘭が震えてると思ったのか、安心させるように抱きしめる太郎の腕に力がこもった。

(きゃあーー! 太郎先輩!)

もう限界だと感じたその時。
静かなローズガーデン一帯に無機質な音が鳴り響いた。

お互い驚きで身体が僅かに跳ねる。

「やべ、電話だ」

小声で焦る太郎は、切れば余計に怪しまれると思ったのか、ブレザーのポケットの上から音が漏れないように押さえ付けている。

(電話……でも今の音で確実にバレたよね……)
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