甘美な蜜のプワゾン
蘭は極道の娘。
いつ何時、自分の身に危険が及ぶか分からない。
故に護身術は幼少の頃から叩き込まれている。

だけども、それがいざというときに役に立つのか……。
太郎のような体躯の男に襲われては、勝てる自信など微塵もない。

(太郎先輩、何かスポーツでもしてるのかな? クラブしてるようには見えないし)

とにかく、家に帰ったら護衛の長瀬に相手をしてもらおうと、蘭は意気込んでローズアーチをくぐり抜けた。

「あ……」

アーチを抜けた瞬間、目に飛び込む人物。

アンティークなガーデンライトの支柱に背を預け、腕を組んで真っ直ぐ蘭を鋭く射抜いてくる目。

名村 右京。

蘭の背にイヤな汗が流れ落ちていく。

(ウソ……何で? 太郎先輩は……?)

周囲を見渡しても太郎の姿はなかった。

「やはりな」

右京は冷え冷えとした声音で支柱から背を離し、蘭へと身体を向けてきた。

「す、すみません」

もう、頭を下げるしかない。
言い訳など右京には通じないだろうからと。
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