甘美な蜜のプワゾン
駅までをとぼとぼと歩く蘭だったが、今日も通行人の視線は相変わらずで、中には声を掛けてこようとする者もいる為、足早に駅構内へと入って行った。

電車が来るまで後5分。

ベンチにでも座ろうかと視線をホーム内に走らせた時、蘭は驚きで目を見開いた。

(うそ……)

ベンチに腰を掛ける2人の少年。
その少年に熱い視線を送る一華学園の生徒含む周囲の人間。

まさに、あの場だけが異空間。

(太郎先輩も電車通学だったのか……。しかも同じ方向……)

その時、右京の顔が蘭に向いた気がして慌てて人影に隠れた。

(あ、危ない。見られてないよね?)

心臓ばくばく言わせながら、蘭はこっそりベンチに視線を遣った。

「よかった……」

右京は太郎と何事もなかったかのように会話していた為、蘭はホッとした。

程なくして電車がホームに入ってきた。

乗降客で一瞬ごたつくが、蘭は最後に電車へと乗り込む。

ここからは暫く座れないのはいつものことで、扉の前を陣取る蘭。

降りる駅まで10駅もあるが、それも5駅くらい過ぎれば一気に乗客も減っていくため座る事は出来る。

それまでの我慢だ。
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