甘美な蜜のプワゾン
「あ……」

「久しぶり。蘭ちゃん」

太郎が魅力的な笑みを向けてくるも、蘭の視線は右京から外すことが出来ずにいた。

(最悪……。まだ降りてなかったなんて)

相変わらず刺すような冷たい視線を向けてくる右京。

言い訳したい気分だったが、それでは自分が疚(やま)しいと言っているようで黙ってると、太郎が心配そうに蘭の隣へ座ってきた。

「なんか元気ないね。どうかした?」

「そ、そうですか? いつもと変わりありませんよ?」

優しく問いかけてくれる太郎に、蘭は目線を合わせられず、素っ気なく答えていた。

(お願い先輩……話しかけないで……。名村先輩が名村先輩が……)

「右京が……どうかした?」

「へ!?」

太郎が怪訝そうに自身の前に立つ右京を見上げていたが、蘭はまさか右京の名が出てくるとは思わず、その口からはすっとんきょうな声が出ていた。

「いや、なんかやけに右京気にしてるみたいだしさ。どうせなら俺を気にして欲しいもんだよね」

と、太郎は慣れた手つきで蘭の顎を掴むと、顔を強制的に自身へと向けてきた。

「ちょっ……先輩……」

見ないようにしていた太郎の顔なのに、そのせいで近距離で見てしまうことになり、蘭の顔は一気に火を噴いたように熱くなった。


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