甘美な蜜のプワゾン
「いやぁ……流石は蘭ちゃん。ありがとう。本当助かった」

「い、いえ……その……あはは」

(最悪……やってしまったよ……)

愉快そうな太郎を余所に、とんでもない姿を見せてしまった蘭は小さくなっている。

男所帯で育った蘭。
兄弟喧嘩でも口喧嘩ばかりであった為、身に付いてしまった口の悪さ。

つい、キレて地が出てしまったのだった。

「でも、かえって蘭ちゃんには悪い事したな。送る、なんてカッコよく言ったはいいけど、逆に変な事に巻き込んで」

「いえ、そんな全然大丈夫ですよ! またいつでも送って下さい! なんて」

あははとジョーク混じりに笑う蘭に、太郎はホッとしたような、嬉しいような、眩しい物を見るかのように、目を細めていた。

「オレからも礼を言わせてもらう」

「え?」

笑い合う2人の間に、右京は1人真剣な面持ちで蘭を見据えてきた。

「ああいう馬鹿な女どもには、ほとほと嫌になってたんだ。あれは……スカッとした」

最後の方は小さな声で言ってから目を逸らす右京に、蘭の表情は一気に明るくなった。

「そう言って貰えて嬉し――」

「お嬢!!」

蘭の声を遮る声。
見ると、良く見知った男が何とも言えない形相で駆けてきた。
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