甘美な蜜のプワゾン
「……長瀬さん? どうかしました?」

「あ……いえ、すみません。何でもないです」

「そうですか?」

「はい……」

(長瀬さんも見惚れてた……って、そんなわけないしね)

何かありそうだとは思ったが、今は聞かない方がいいと判断した蘭は黙ってる事にした。

「じゃ、蘭ちゃんまた明日」

「はい! 先輩方本当にわざわざありがとうございました。お気をつけて」

「礼なんていいよ。俺が勝手に付いてきたようなもんだし。じゃ」

2人に深く頭を下げる蘭に太郎は爽やかに手を振り、右京とともに帰って行った。

2人の姿が見えなくなるまで見送る間、長瀬が何か複雑そうな顔をしていたのを、蘭はこっそり見ていた。


「長瀬さんも、わざわざすみませんでした」

「いえ、お嬢に何かあっては大変ですから。お帰りなさいませ」

度が過ぎるくらいの心配性な上、頑固者な長瀬だが、いつも一番に出迎えてくれて“お帰り”と言ってくれるのは素直に嬉しいものだった。


――家までの僅かな道のり。

長瀬から何か妙な空気が流れてきて、蘭は耐えきれず口を開いた。

「あの、何かあったんですか?」

「あ……いえ、すみません。いや、そうじゃなくて、そのさっきの男ですが……」

「先輩たち?」

敢えて蘭は名前を出さなかった。

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