甘美な蜜のプワゾン
「もしかして、不良?」

あのフェロモン王子が人を殴る図を想像してしまい、蘭は頭を振る。

「不良……というよりは一匹狼のような奴でした。でも本当に荒(すさ)んでたし、売られた喧嘩は全て買ってましたね。でも、何て言うのか、それを自分からそう仕向けてたみたいに俺は見えたんですが……」

「自分から……」

そう言えばと、蘭は前に太郎が言っていた言葉を思い出した。

『本当はあんな風に暴れて、何もかも投げ出せたら楽なんじゃないかって思った時もあった。でも、俺は……』

初めて会った時、蘭の父親と兄の話が出たときに、そう口にしていた。

不完全燃焼……。

爆発させなきゃいけない程の“何か”があったけど、それすらも上手く燃焼させることも出来なかった。

何にせよ、太郎にとって“楽”な道は進めなかったのだ。

今は進学校に通うような、百八十度も違う世界に太郎はいるのだから……。

「そう言えば太郎先輩、長瀬さんのこと気付いてなかったんですかね……」

「美上は滅多な事がない限り、自分から喧嘩売るような奴じゃなかったし、俺も自分からは売るタイプではないので、ぶつかることもなかったし、奴は俺の存在さえも知らないはずですよ。逆にアイツはあのルックスだし、何をするにも目立ってましたからね。嫌でも目に入るっていいますか……」

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