甘美な蜜のプワゾン
「なんでって、そんなの犯罪と一緒じゃないですか」

いくら相手が男だからといって、同意もなく襲っていい理由にはならない。

なのに。

「犯罪になるの? 別にいつもの事だけど」

蘭の言ってる事が理解出来ないとでも言いたげに、少年は首を傾げる。

「いつもの事って、そんなの――」

「ねぇ、そんなことより、さっきの。普通の恋って何?」

長身を屈めて蘭の顔を覗き込む少年の近すぎる顔に、蘭は思わず飛び退いた。

(き、危険だ……この人。無意識? だとしたら、たちが悪い)

人は誰しも警戒という名のテリトリーがある。
それを簡単に打ち破れるのは自分に自信がある者だけ。

意識的に誘惑する者は感情をコントロールするのが上手いが、無意識な人間はそれがない。

相手にどんな影響を与えても我関せず……始末が悪い。

「な、なんでそんなこと気にするんですか?」

「だって、普通の恋って意味が分からない」

「それは……私が普通じゃないから」

失恋したての傷を抉られているというのに、その痛みさえも忘れさせる少年。

それはきっと彼が興味本意で聞いてるのではなく、純粋に疑問に感じてるのが分かったからだろう。
< 6 / 68 >

この作品をシェア

pagetop