甘美な蜜のプワゾン
「そうですか……」

中学生と言えば多感な年頃だ。
酒や煙草、興味本位で非行に走る者もいるだろう。

長瀬一人の言葉を鵜呑みには出来ないけど、太郎の場合は何か複雑な背景がありそうだと、感じずにはいられない話だった。

「それと、美上は――あ……!」

何かを言いかけた長瀬は、慌てて道端に避けて
頭を深く下げた。

敷地内の道を走ってくる白い軽自動車。
蘭はそれを見るや、直ぐに車に駆け寄っていった。

「お帰り、蘭」

「ただいまー!」

愛車に乗る蘭の母、リリ。
自ら運転しているということは、スーパーの買い物だろう。

「そろそろ帰ってくるだろうと思って。乗って」

「うん!」

蘭は直ぐに助手席に乗り込んだ。

道端でもう一度軽く頭を下げる長瀬に、母娘は陽気に手を振ってくる。

「長瀬くん、いつもありがとうね」

「い、いえ、勿体なきお言葉」

最近の若者とは思えないほどの硬い言葉で、深く頭を下げてから、長瀬は一人心配そうに眉を寄せ、2人を見送った。

本来ならば、護衛を付けなければならない。
何しろ若頭の奥方。
外出先で何かあってはならない大切な身。

だけど、スーパーは直ぐ近くな為、わざわざその為だけに車を出してもらうのは、申し訳ないと頑なにリリは拒んだのだ。

夫である玲は、それはそれは心配してなかなか聞き入れることをしなかったが、昔からのリリの頑固さに、ついに根負けしたのだ。

しかし玲は条件を付けることは忘れない。
“必ず誰か1人は連れていけ”ということを……。
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