甘美な蜜のプワゾン
「いつから待ってたの? 随分待たせたんじゃ……」

「そんなに待ってねぇよ」

リリの言葉に玲は何でもないように笑う。

「お父さんが店内に入ってきたら、大変な事になるよね絶対」

「確かに……」

リリと玲は昔を思い出し、2人で苦笑する。

「帰るぞ」

「うん」

自然な動作でリリの腰に腕を回す玲。

そんな仲の良い両親の姿は、見ていて照れ臭いが、やはり蘭にとっては憧れる2人の姿。

車までの短い距離を、蘭はリリの手を握って歩く家族3人の姿は、微笑ましいものがあった。


 リリが車の鍵を開けると、後部座席に買い物袋を置いた玲は自然に運転席へと座った。

軽自動車が似合わない。
とは、口が裂けても言えないが……。

「お父さんって、本当お母さん大好きだよね」

「や、やだ、蘭ったらいきなりどうしたの?」

照れるリリを余所に玲はしらっと「当然」と答える。

玲はクールだが、リリに対しての愛はいつもストレートに表現をするし、言葉にもする。

そして、子供たちへの愛もしっかり伝えてくれる。

「私、2人の子供で本当に良かった」

家のせいで上手くいかない事も確かにあるけど、大好きな家族に囲まれて暮らしていけるのは、本当に幸せな事なんだと蘭は強く実感した。

玲とリリもまた、蘭の言葉に幸せを噛み締めるように微笑み合った。


 一家団欒、楽しく幸せな時を過ごしていた蘭は、長瀬が何か言い掛けていた事などは頭から完全に吹き飛んでいた。
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