ヴァンタン・二十歳の誕生日
 (それともママはパパの悪戯だと思っていたのか? きっと世界一美人は私だと思わせるためだと……。でも何故ママではなかったの? もし絵を描いて貰うのだったら……愛する奥さんの筈では?)

私はそんなことを考えながらそれ を外し、屋根裏部屋に向かった。




 又チビを揺さぶった。

チビは屋根裏部屋のベッドの中で眠り続けていた。


「あれっおねえさん? さっきのは夢じゃ……?」

チビが言う。


そうだ……
確かに自分もそう言った。


(やはり、此処は十年前の……そうだ。これから二人だけの冒険に出掛けるんだ!)




 チビと二人で屋根裏部屋の鏡の前にいた。

でもチビは泣いていた。


魔法の鏡が怖かったから、自分の元居た部屋に舞い戻ったのに……


又此処に居る。


(そりゃあ怖いに決まってる)

私は二人の気持ちの間で揺れていた。




 (魔法の鏡は屋根裏にやはり置いてあったんだ。母が移動させた後、私が又其処に置いた。だからずっと屋根裏部屋に置いてあったものだと思ったのだ。だから私はずっと屋根裏を探したんだ)


心を落ち着かせる為に、蛍光灯を消してみた。

トップライトから月の光が二人を照らしている。

チビが泣く理由は解っていた。

でも……

泣きたいのは私だった。


私は魔法の鏡が動かないように、屋根裏部屋にあったガラスの小箱を添えた。




 あの日と同じに……

あの魔法の鏡が私達を写している。

私は十年前のお・ね・え・さんの真似をする。


手を繋ぎ、片方の手を鏡の縁に掛ける。


そうすれば体は現世に残せると思ったのだ。


そう……
鏡の中を旅するのは、魂だった……


(そうだよね? 私が十年前に会ったお・ね・え・さん教えて)


私達は手が離れないようにしっかりと繋ぎ合った。


そして私にとっては懐かしい。
ワクワクドキドキの、鏡の世界。

私は怖がっているチビと一緒に飛び込んで行った。




 (えっ!? 何故二人を写してた!? 確か、確か……さっきまで自分一人だった……。それが何故……!? やはり絵ではなかったのか? パパもしかしたら私、とんでもない事をしようとしているのかも知れない)





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