ヴァンタン・二十歳の誕生日
 「よしよしお休み」
私はこの時、母にも似た気持ちになった。


私のせいで気絶したように眠るチビ。

暫くそのままにして置こうと思った。


(でも何故私は全部忘れていたのだろう? 何故私は屋根裏部屋まで忘れていたのだろう?)

不思議だった。

楽しい思い出だったと、何故今言えるのかと……




 手を伸ばせばその船に乗れると思っていた。


ところが、甲板に上がれる物は何もなかった。


(もう助からない!)

そう思った瞬間。
船の側面にロープに繋がれたゴンドラのような物が揺れているのを見た。


両端をロープて括った、一言で言うと大きなブランコみたいな物だった。




 (助かった。これはきっと荷物の上げ下げに使うとね。でも良く考えてあるな)

私は関心しながら、まずチビをそのうえに乗せた。

現実だと認識していないせいか、何でも出来た。

ウンテイや棒登りはは苦手だった。

それでも必死に上を目指した。




 良くビル掃除の時に使われるゴンドラ。

チビと二人で上がって行く。

でもチビはまだ眠っていた。


知らなかった。
お・ね・え・さんがこんなに苦労をしていたなんて。
私はただお・ね・え・さんに守られて……
眠っていた。




 それは帆船だった。
マストはメインとフォアの三本。

帆布はしっかり巻き付けられている。


(初めて見た……わあ何て素晴らしいんだろう!)

私は一人で感激に浸っていた。



 (大丈夫。大丈夫。この携帯さえあればきっとうまく行く)

私は自分に言い聞かせていた。


取り出した携帯のカバーを開けライト代わりにする。
潜望鏡の正体を確かめるためだった。

甲板で眠っているチビに気遣いながら、私はそっとそれに近付いた。




 煙突の横に穴があり、階段で降りられるようになっていた。


早速一人で降りてみた。
煙突の正体は、調理室だった。


(ここで料理したのか?)


火を使うためだろう。
調理用ストーブの周りは防火対策でレンガ造りになっていた。


目を瞑る。

乗り組んだ船員の空腹を満たす為に奮闘するシェフの姿を思い浮かべてみる。


(材料は?)

私は辺りを見回した。

幾ら満月だと言っても船底まで明るい筈もなく、ただゴロゴロした何かがある位しか解らなかった。




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