ヴァンタン・二十歳の誕生日
 月明かりに照らされて、もう一つの階段に気付かされた。

そっーと近付く。
長テーブルと長椅子があった。
きっと此処で食事をしたのだろう。


その上にはハンモックが垂れ下がっていた。
船員達はきっと此処で食べて寝ていたのだろう。

奥の奥に何かが見えた。
それは樽のようだった。

私はもう一度携帯を手に取った。




 この時代に携帯電話はあっても、私のはきっと使えない。
番号も機能も増えたからだ。


でもカメラや明かり取り位にはなるだろう。


母は私がお風呂に入っている間に充電しておいてくれたから、此処で使えるのだ。


(お母さんありがとう)

私は今は遠い母に感謝しながら、もう一度携帯のカバーを開けた。


その途端に開閉音。
しまったと思い慌ててカバーを閉じる。
でも暫くしてからソッと開けた。
マナーモードにするためだった。




 (こんな場面……何かに残したい)

素直にそう思った。


月明かりに照らされて、浮かび上がる帆船。

雄大な光景を、思いっきり満喫した私。


(チビも見れば良いのに……)


真っ暗な夜に満天な星。

おまけに満月。


(えっ、満月!?)

思い出したことがあった。


(パパが行方不明になったのも……確か満月の夜だった……)


ゾォーっとした。

(このまま私達も迷子になったりして……)

一瞬……頭を振った。


(違った。行方不明だった。そう、パパと同じように……)




 あの夜は確かに満月だった……。
パパが魔法の鏡をプレゼントしてくれた翌日。


パパは見回りの為船に戻った。
そしてそのまま船と一緒に行方不明になっちゃったんだ。


海賊船の襲来だと言われてきた。
パパが乗っ取ったとも言われてきた。


(そうか! だからお母さんはパパの話をしなくなったんだ。だから私はパパを忘れていたんだ。もしパパが犯罪を犯していたら……? 母はそう考えていたのだろうか?)


それは万が一にも考えられないことだったはずだけど……

パパはあの日から帰って来なくなったんだ。




 フォアマストの横に煙突があった。
一瞬潜望鏡かと思った。


(馬鹿が私は……。潜水艦でもないのに)

一人で笑いをこらえた。


(一体これは何なのだろうか?)

好奇心が揺すぶられる。
本当は怖いはずなのに……




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