ヴァンタン・二十歳の誕生日
 「実はお前にはお姉さんがいた」
パパが突拍子のない事を言い出した。


「お前の産まれる十年前。ママは一人の女の子を産んだ」


(十年前?)

私は身構えた。
これからパパの話すことがとても重大な意味を持つと直感したからだった。

私とチビが十歳違いだったからかも知れない。


「でもそれは死産で……ママは苦しんだ。パパは仕事で一緒にいてやれなかった」

パパの辛さが良く解る。

航海中の船からの帰国など許されるはずは無かっただろう。

パパもママも苦しんだのだと思った。


「ごめん。お前を見ていたら、生きていたらきっとと思えて」


(お姉さんが生きていたら……もしかしたらお・ね・え・さん?)

パパは私にお・ね・え・さんを感じている。
チビが産まれる十年前に亡くなったから……



(ってことは? えっ!? えっ、えー!?私がお・ね・え・さん!?)




 「実は屋根裏部屋にあったベッドはそのお姉さんの物だった」


(えっ! そうかだからあのベッドは彼処にあったのか)

私は泣いていた。
子供を亡くした母の悲しみが、私の心を埋め尽くした。




 ハイジやアンに憧れる少女は多い。
母もその一人だったのだ。

だから自宅に屋根裏部屋を作った。

母は亡くなった娘を永遠の世界で生かせたかったのだろう。


私はもう一度あの屋根裏部屋で寝たいと思った。
お・ね・え・さんを感じながら……




 「でもパパは思ったんだ。このベッドが亡くなった姉の供養になるのではないかと」

パパは私のポニーテールに手をやった。


「このリボンは二つ……一つは……」
パパは泣いていた。


「解るよパパ。お姉さんによね?」

パパは頷いた。


(あのガラスの小箱にあったリボンは、お姉さんの物だったのか……)

パパの心遣いが嬉しくて私は泣いていた。


「ママはお前が産まれる前に、何時までも引きずっていては駄目だと言ってベッドを移したんだ」

パパも泣いていた。

私はパパとママの子供に生まれて来たことを誇りに思った。




 「ママは子供部屋まで用意していた……」


「それが今の私の部屋?」

パパは頷いた。


「でもママはあのベッドに思い入れがあって……」


(そうかだから私が彼処で寝ると言い出した時、良い顔しなかったのか。それなのに私は……ママの反対を押し切って……。私ってなんて親不孝なんだろう)



< 27 / 52 >

この作品をシェア

pagetop