ヴァンタン・二十歳の誕生日
 「ママをもっと苦しめた事があったんだ。それは名前だった」


「名前? ねえパパどんな名前だったの?」


「聞きたいか?」

私は頷いた。


「だって私のお姉さんでしょう。本当の名前で呼んであげたいの」

私の言葉にパパは何度も頷いた。




 「若草物語って知ってるかい?」


(えっ!?)

パパの質問に私は思わず声を詰まらせた。


「ママの憧れだったんだ。パパの帰りを待つ四姉妹の気持ちが良く解るって言って泣いてた」


(そりゃそうだろう。私だってパパの帰りを待ちわびていた……)


「パパ達は学生結婚だったんだ。パパは商船大学だったから、その頃からあまり家に戻れなかったんだ。」


「ママ、寂しかったね」


「そうだね。だからお腹の中の赤ちゃんと良く話していたよ」


「ふーん。どんな話ししてたんだろ?」

私は何気無く言った。


「ママは『この子には甘えん坊になってもらいたい』そう言って末っ子のエイミーと名付けた」


(えっ!?)

私は又固まった。


言えなかった。
言える筈がなかった。


女子会で私がエイミーと呼ばれているなんて。

ジョーだけではなかった。
むしろ私だった。
母が名付けたいと思っていた名前を名乗っていたなんて……


(私ってなんて罪作りなんだろう。エイミー姉さん、私を許して)




 「エイミーはアルファベットではAMYと書くんだ。でもこれは悪魔学における悪魔の一柱だと言う人が居て……。ママは『自分がこの名前を選ばなければこの子は死産にならなかった』と攻め続けたんだ」


(えっ!? エイミーにそんな意味があったなんて……知らなかった)


「Amyだからあみにしようかなんて事も言っていたんだけど……結局死産だったから、それならエイミーのままでってことにした」




 難しい話は解らない。

私は改めて母に対する親不孝を心で詫びた。


母の気持ちも知らないでいい気になっていた。


もしかしたら私がエイミーと名乗りたくて、雅が髪を切ってきた時に言い出したのかも知れない。


「ホラーとかオカルトブームとかがその前にあって、まだ子供だったけど……。そう言うのが染み付いていたんだよね。だから、余計に自分を責めたんだと思うよ。ママってそう言う人だろう?」

私はパパの言葉を確かめるように頷いた。




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