MOONLIGHT【番外編~ウエディング、新婚旅行!?編】
「まぁ、役者としては、どんな役だってできないなんて絶対言いたくはないさ。木村君、君はマネジメントの立場として物を言うのは分かるが・・・このストイックさがなければ役者なんて成長しないんだ。役者で要領良く・・・なんて仕事をしていたら、要領のいい芝居しかできない。確かにそれはとても効率がよく、無駄がないから制作現場では重宝がられるだろうが・・・だけど、要領のいい芝居では、人の心を打つような感動は得られない。時には・・・役者自身、悩んで、苦しんで、のたうちまわって・・・そうして役作りをする工程を踏むというのが成長につながるんだ。将君は、この役を死んでも降りないといっている、やる気だ。だったら、私を始め・・・この事務所のスタッフ全員で将君を応援するしかないんじゃないか?」
全く役作りができていない俺の台本の読み合わせに根気よくつきあってくれていた、事務所の大先輩の船津五郎さんが、頑なな俺に呆れた顔をした木村さんに意見してくれた。
それは上手く言い表せなかったが、漠然と心の中にあったそのままの俺の思いで・・・なぜ俺の考えている事が船津さんは分かるのだろうと、不思議に思った。
その気持ちが表情に表れたのだろうか、船津さんが俺を見てクスリ、と笑った。
「将君、今の気持ちは私の気持ちを語ったまでだ・・・でも、君だってそう思っている事は分かっている。芝居に対してそういう姿勢の君だから、うちの事務所に入ってもらったんだ。だから、遠慮なんかしなくていい。私にできる事があればいくらでもこうやって協力するし。私も君を反対に頼るかもしれない。三千夫だって同じ気持ちだ。」
三千夫と船津さんが言ったのは、俺が所属するこの船津プロダクションの社長で。
船津さんの実の弟だ。
しかし社長と言っても、この事務所は船津五郎さんの考えで動いていて、社長は実際の所その船津さんの考え通りにしているのだ。
いや・・・違うな・・・船津さんの言う通りというより、兄弟とても仲が良く2人は一心同体の様に意見の食い違いがないのだ。