MOONLIGHT【番外編~ウエディング、新婚旅行!?編】
★花嫁の父、葉山謙一郎のため息
はぁぁぁぁ。
あと、式まで30分切った…。
もう、もう…。
胸が震えて。
涙が止まらない…。
俺は、4畳ほどある、身障者用の手洗いで1時間涙と格闘していた。
思えば、レイには随分不憫な思いをさせた。
可哀相な事をした。
やはり、美景を何が何でも説き伏せて、籍を入れるべきだったんだ。
いや、こんなことは何千回、何万回も美景が亡くなってから後悔したことだが…。
もちろん、長男である典幸も俺にとっては可愛い子供だが、レイは本当に特別可愛い。
それに心の優しい子だ。
ただ、不器用なだけで。
だから、あの中川というくだらない男にだまされたと知った時は、体中の血が逆流するんじゃないかと思うほど、腹がたった。
だが、レイが葉山の籍に入ってくれるという条件で中川をつぶすのをあきらめたが。
まあ、関東にはもうもどってこられないようにしてはあるが。
それよりも、将君だ。
俳優としてのイメージとは違いなかなかイイ男で、正直ほっとした。
彼の両親が他界しているという点も、レイに姑の苦労をさせなくて済むという安心もある。
まあ、彼なら大丈夫だろうが、もしレイを裏切るような事をすれば、彼も中川と同じような対応をするまでだけどな。
「・・・本当に、相変わらず、親ばか。」
俺以外、誰も入れはしない個室の中で、突然聞こえた声は。
15年聞いていなくたって、直ぐに俺の胸を熱くする甘い気だるい声…。
振り返ると、やはり。
愛しい、人―――
「美景……。」
中川のことを思い出し一度引っ込んだ涙がまた溢れてきた。
思わず、手をのばす。
「触れないわよ。私、幽霊なんだから。」
クスリ、と笑う。
つり目のクールな瞳も、微笑むと柔らかくなるのは、レイにそっくりだ。
「レイ、そっくりだな。」
「何言ってるの、レイが私に似ているのよ。ああ、その高い形のいい鼻は、貴方に似たのよね。」
美景が俺を見る。
それだけで、体が熱くなる・・・。
「何、幽霊に欲情してるのよ。」
「し、してなっい!俺はただ…」
慌てて、否定するが。
ぷっ、と吹き出された。
「冗談よ。相変わらずね。」
また、からかわれた・・・。