MOONLIGHT【番外編~ウエディング、新婚旅行!?編】
酒場のオヤジとしては、こういう客が嬉しい。
ビールをあおる時の旨そうな顔をみると、素直に楽しい。
此処に努めて40年程だが、未だにそんな気持ちになる客に出会うと、酒場のオヤジの幸せを感じたりする。
ここでのひと時を楽しんでもらいたい、とそう思った。
だけど。
瀬野の坊主がそれをぶち壊した。
彼女にナンパのごとく話しかけやがった。
無視をされていたが、珍しくあのプライドの高い、人気俳優がへこまず話しかけている。
ウザそうに、彼女はあしらうが…。
そこへ、また厄介な奴が来た。
女好きの、戸田だ。
顔は不細工だが、話がうまくマメなのと金があるから、始末が悪い。
お前らいい加減にしろよ、と心の中で毒づいて、はっとする。
そうだ、もとはと言えば、俺がこの席に案内したんだ。
咄嗟に、別に席をつくると申し出たが、訝そうな顔をされた。
そりゃそうだ、この場合席を移るのは、後から来た瀬野の坊主と、戸田の方だ。
だけど、この席は麻実の席で。
それに、今日は瀬野の坊主と一緒だからと戸田にこの席を頼まれていたんだ。
だから、この席に彼女が座っていたことに、戸田も、瀬野の坊主も座る前に、一瞬俺を見たのだった。
俺だって説明できない。
何で、彼女をこの席に案内してしまったのかなんて…。
無意識だったから…。
この店の支配人を務めてから、こんなことははじめてだった…。
だけど、戸田さえも。
一目で彼女を気に入ってしまい。
瀬野の坊主と、知り合いになろうと必死に彼女にくいさがった…が。
彼女は、ずっとクールのままで。
ビールを2杯注文して、殆ど一気に飲み干すと、帰るそぶりをして会計を頼んできた。
だけど、完全に今夜は俺の失敗で。
金なんて貰えるはずもなく――
そんな話をしていたら、戸田の様子がおかしくなった。
すると、彼女は今までのクールな仮面を外し、医者としての顔を見せた。
ああ、やっとわかった。
今日、この席に彼女を座らせたのは。
偶然でも、俺の失敗でもない…。
これは、必然だ――
麻実の、戸田を助けるための…。
必然という、意思。
彼女をこの席に座らせた、麻実の想いだ。
はぁ。
スゲー女だよ。
麻実も。
そして、彼女も…麻実に選ばれたんだから…。
目の前のクールでいい女に、ため息が出た。