空を失った青(青空への手紙~君との約束~の番外編)
そこにはステージに堂々と立っている、相原先輩。
そして、下では慌てている先生たち。
クスクス笑っている相原先輩の同級生たち。
相原先輩はそんなのはお構いなしに、持っていた紙を丁寧に畳んで胸ポケットに戻し、スタンドからマイクを取って、自分の手でしっかりと持った。
全国放送に映りなれている相原先輩。
きっと、こういう場でも度胸だけはあるのだろう。
あーあ。キャプテンの言っていたこと、当たっちゃったよ。
「えー……。まず、この学校で卒業式を迎えることのできなかった、水木空のことを話させてください。
空……。いや、彼女は、みなさんご存知かと思いますが、癌に犯され、今年の春に亡くなりました。俺の幼馴染であり、俺の彼女でした。
彼女は俺に、身をもって教えてくれたことがあります。それは、”自分の道を見失わないこと”。
今、俺たちは、当たり前のように息をして、当たり前のように歩いて、当たり前のように話して、当たり前のように恋をしています。
だけどもし、突然自分の身に何かが起きて、それが当たり前ではなくなったら……。皆さんには、想像ができないかと思います。
俺も、一時期はそんな状態に陥ったこともありました。俺は、時間を失いました。だけど、俺はまだ、救われていました。
しかし……彼女はちがった。時間はもちろん、体力、自由、髪……そして、命を失いました。
彼女は亡くなるギリギリまで、自分の道を貫きました。自分を見失うことはありませんでした。俺にも、彼女から自分の道へ行けと、何度も何度も言われました。
ただ、他人に流されるのではなく、自分をしっかりと持つこと。
それが、今の俺たちには必要なんじゃないかと俺は思います。この社会には、沢山の誘惑があることだと思います。
彼女が、教えてくれたことは無駄にしない。
今、藤青の名は全国に広まりました。藤青の卒業生として、俺は、人生の終わりまで、自分の道を見失わずに進んでいきます。
藤青の名に恥じぬように。
……最後に、俺と空を温かく見守ってくださったすべての方々に、お礼を言わせてください。
本当に、ありがとうございました。
平成××年3月12日、卒業生代表、相原青」