叢雲 -ムラクモ-
二人がかりで五分弱。ようやくガムテープをはがしきった。

「もういいぞ、北川」

そーっと、いかにも恐る恐るという感じで扉が開く。

「……先生っ」

少しだけ顔をのぞかせた北川は俺と目が合うと、飛び出してきた。

「先生!」

その勢いのままに、北川は俺に抱きついた。

「いて」

勢いがよすぎて俺は壁で頭を打ったが、北川はそんなことどこ吹く風で、

「怖かった……! せまくて、暗くて、呼んでも誰も来てくれなくて……っ」

それでもこいつが泣かないのは、俺が来るまでに涙がかれてしまったからだろうか。

「……悪い。遅くなった」

幼い子をあやすように頭を撫でてやれば、北川はようやく涙を流した。










「ごめん……先生の手、おっきくて、安心しちゃってさ」

ぐす、と北川は鼻をすすった。

青い瞳を半分ほど隠すまぶたが、赤くはれていた。

「何があったか話せるか」

「……うん」

北川は青い瞳のせいで、ずっと前からちょいちょいいじめ的なことをされていたらしい。

「ほうきで足を叩かれた日は痛くて部活休んだの。次の日、すっごい青くなっちゃってて、青い瞳とよく似合ってるとか言われて」

そのいじめてる犯人を、北川は口にしなかった。

「……朝いつも一人なのは、友達がいないから」

有坂は、とは聞けなかった。答えはすでに分かっていた。

「ゆうきちゃん……有坂ゆうきちゃん、先生の前では友達ぶってたけど……」

「……有坂がやったんだな」

「……うん」

「有坂だけか」

「うん」

北川は強い目をしていた。
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