叢雲 -ムラクモ-
「松ちゃん! 北川!」

聞き覚えのある声がして視線を前に向ければ、曲がり角から手を振る岸田がいた。

「あ、岸田くん!」

北川はそれに気付くと走っていった。俺は別に岸田が待とうと構わないので、ゆっくり追い付いた。

「岸田くん早いね。いつもこんな時間だった?」

「いや、まあ、うん」

うそつけ、遅刻常習犯め。

「あ、そだ。駅前にケーキ屋さんが出来てさ……」

昨日俺にした話を岸田にもする北川。女ってのは、同じ話でも飽きずに話すんだな。

男は一度誰かに話せば、同じ話をするきにならん。……俺が例外なだけかもしれないが。

「あ。じゃあ先生、また教室で」

いつの間にやら職員室に着いていた。

大丈夫か俺、そろそろとしか……。いや待て、まだ二十代前半だ。

「おう。じゃな」

別れ際、北川は俺の耳に唇を近づけて、

「……ケーキ屋さん、楽しみに待ってるから」

ふわりと笑って離れた北川は、ハテナをうかべる岸田になんでもないと返し、階段を上がっていった。

……あー。

どうすっかな、ケーキ屋。










ま、とりあえず保留ってことでいいよな。

開店したばっかじゃ混んでるだろうし。俺は人混みなんか大嫌いだからな。

とにかく人口密度が高い場所は嫌いだ。それは教室も該当する。

「……北川、窓開けろ」

「はーい」

「……よし。じゃあ、ホームルームを始める」
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