叢雲 -ムラクモ-
「松村先生!」

「……はい?」

はあ……。

金切り声と聞けば、全校生徒がこの人を連想すると断定できる……坂上先生の登場だ。

「俺これからメシ食いに行くんスけど」

「その前に……」

ここ、職員室も物が多いから好きじゃない。そうだな、屋上が一番好きだ。

「松村先生。あなたとあなたの生徒が一緒に登校していると言う報告が、今年度に入ってから約二ヶ月間途絶えないんですが、どういうおつもりですか!」

……は?

「どういうつもりって……生徒と一緒に登校しちゃ、いけませんでしたか?」

「はい。いけません」

んなこと聞いてねえぞ。

「今後一切、生徒と登校しないように」

「待ってください。どうして駄目なんですか」

「……一緒に登校している生徒が誰かも、報告は受けています。あなたが明日以降その生徒と一緒に登校するようなことがあれば、その生徒にも指導させていただきます」

大人びた、上から目線の口調が、ひどく気に入らなかった。










「……」

教室に戻って何も知らない北川の顔を見るのかと思えば足取りが重くなったが、俺はそれ以上に困るべき事実に気付き始めていた。

……朝、北川と一緒に来れないと思うだけで、すげえさみしいっつーか……心ん中に穴があいたみてー。

今日以上に坂上先生をうざく思った日はない。

……ケーキ屋、行きてえ。

「先生!」

今一番聞きたくて、聞きたくない声がした。

いくら足取りが重くても、いつかは教室に着くらしい。

「遅かったね。あたしもう食べ終わっちゃったよ」

お前が早すぎなんだろ。

「……あれ。先生、お弁当は?」

「……あ」

北川に言われてようやく気付く。俺、手にメシ持ってなかった。

なんのために職員室行ったんだよ、俺……。

「職員室に忘れてきたんだ? 先生でもそんなことあるんだねー」

「……北川」

「ん?」

「明日俺早いから、岸田と来い」

「え……なんで? 今までそんなことっ」

「いいから。俺はお前と来れねえんだよ」

納得のいかなさそうな顔をしているが、仕方ないと言い聞かせる。

……まるで、自分に言うように。
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