叢雲 -ムラクモ-
「……」

確か、二ヶ月間ずっと報告を受けてたようなこと言ってたよな。

「それでね、聞いてみたんですわ」

「なんでやねーん!」

「まだ早いっ! まだボケてへんて!」

さしておもしろくもない若手芸人。

テレビの中の会場は笑いに包まれているが、どうせ編集したんだろ。

つまんねー。

テレビを消した途端に静かになった。

時計の針が、一定のリズムで時を刻む。

濡れた髪の水分を、首にかけてるタオルで拭き取った。

「……」

今まで報告受けてたくせして、なんで今になってあんな事言い出したんだよ。

……くっそ、相変わらず難しいことは嫌いだ。

『あたし、今、ちょっとでも先生の『特別』かな』

朝言われたことが、ふと頭によぎる。

『こうやって一緒に登校したりいじめから助けてくれたり、あたし、みんなより『特別』?』

一緒に登校すんのもいじめから助けんのも、別に普通だろ。

……普通、だろ。

……普通、だろ?

…………普通って、なんだっけ。










俺はいつもより早く家を出た。もちろん北川と鉢合わせしないためである。

……だが、一人で登校っつーのは意外にさみしーもんだった。

北川が入学して来るまで、ずっと一人で行ってたのによ。

……感覚が狂っちまったのか、北川といるのが当たり前すぎて。

「ケーキ……」

イライラには甘いものがいいと言う。

食いたいとは思わないが、北川となら食ってもいいかもしれない。

だがその現場を目撃されたりなんかしたら、登校できねえどころじゃ済まねーよな。

……どーすんだよ、俺。
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