叢雲 -ムラクモ-
「……うわ」

どんどん先を行く北川とはぐれないように、人混みをかきわけて来てみれば。

「ここ!」

「……」

見た目からして甘そうなケーキ屋が、そこにはあった。

主な色がピンクって時点で俺はすでに吐きそうだ。

「いらっしゃいませー」

どこの店にもある店員の声。カウンターの向こうにいるそいつらも、ピンクのエプロンという甘い服装だった。

「……コーヒー風味、ひとつ」

実際は長ったらしい名前だったが、面倒くさいのでそれだけ言う。

どれにしようかな、なんて悩んでる北川の頭の中は、俺よりケーキのことでいっぱいであることだろう。

甘そうなケーキを見てまわるよりも、楽しそうな北川を見ている方が数倍もいい。

ぼーっと見ていたら、北川が視線に気付いた。

「なに?」

「……早く決めろ」

口から出たのはそれだった。










「……」

二階の席に腰を落ち着けたはいいが、向かいに座る北川はケーキに手をつけようとしない。

十分程かけて選んだイチゴミルフィーユなんたらとかいう名前のケーキだ。

「食べねえのか」

「食べるけど……」

和さん、と北川は言った。

「今日のあたし、いつもと一緒?」

「?」

「ほら、その、服装とか……」

……あー。

「可愛い」

「……!」

「いかにもよそ行きっぽいフリフリのワンピース、その青い裾を握る手もちっさくて可愛い。水色のバッグについたデケー赤いリボンもお前らしくて、可愛い」

とりあえず思ったこと全て言ってやったら、北川は照れ隠しにケーキを頬張った。

「わ、苦い」

「それ、俺のだから」

わざわざ自分から遠い位置にある、色も全く違うコーヒー風味のケーキを間違って食べるって……どんだけ動揺してんだよ。

「……やっぱ可愛い」
< 19 / 45 >

この作品をシェア

pagetop