叢雲 -ムラクモ-
「……うわ」
どんどん先を行く北川とはぐれないように、人混みをかきわけて来てみれば。
「ここ!」
「……」
見た目からして甘そうなケーキ屋が、そこにはあった。
主な色がピンクって時点で俺はすでに吐きそうだ。
「いらっしゃいませー」
どこの店にもある店員の声。カウンターの向こうにいるそいつらも、ピンクのエプロンという甘い服装だった。
「……コーヒー風味、ひとつ」
実際は長ったらしい名前だったが、面倒くさいのでそれだけ言う。
どれにしようかな、なんて悩んでる北川の頭の中は、俺よりケーキのことでいっぱいであることだろう。
甘そうなケーキを見てまわるよりも、楽しそうな北川を見ている方が数倍もいい。
ぼーっと見ていたら、北川が視線に気付いた。
「なに?」
「……早く決めろ」
口から出たのはそれだった。
「……」
二階の席に腰を落ち着けたはいいが、向かいに座る北川はケーキに手をつけようとしない。
十分程かけて選んだイチゴミルフィーユなんたらとかいう名前のケーキだ。
「食べねえのか」
「食べるけど……」
和さん、と北川は言った。
「今日のあたし、いつもと一緒?」
「?」
「ほら、その、服装とか……」
……あー。
「可愛い」
「……!」
「いかにもよそ行きっぽいフリフリのワンピース、その青い裾を握る手もちっさくて可愛い。水色のバッグについたデケー赤いリボンもお前らしくて、可愛い」
とりあえず思ったこと全て言ってやったら、北川は照れ隠しにケーキを頬張った。
「わ、苦い」
「それ、俺のだから」
わざわざ自分から遠い位置にある、色も全く違うコーヒー風味のケーキを間違って食べるって……どんだけ動揺してんだよ。
「……やっぱ可愛い」
どんどん先を行く北川とはぐれないように、人混みをかきわけて来てみれば。
「ここ!」
「……」
見た目からして甘そうなケーキ屋が、そこにはあった。
主な色がピンクって時点で俺はすでに吐きそうだ。
「いらっしゃいませー」
どこの店にもある店員の声。カウンターの向こうにいるそいつらも、ピンクのエプロンという甘い服装だった。
「……コーヒー風味、ひとつ」
実際は長ったらしい名前だったが、面倒くさいのでそれだけ言う。
どれにしようかな、なんて悩んでる北川の頭の中は、俺よりケーキのことでいっぱいであることだろう。
甘そうなケーキを見てまわるよりも、楽しそうな北川を見ている方が数倍もいい。
ぼーっと見ていたら、北川が視線に気付いた。
「なに?」
「……早く決めろ」
口から出たのはそれだった。
「……」
二階の席に腰を落ち着けたはいいが、向かいに座る北川はケーキに手をつけようとしない。
十分程かけて選んだイチゴミルフィーユなんたらとかいう名前のケーキだ。
「食べねえのか」
「食べるけど……」
和さん、と北川は言った。
「今日のあたし、いつもと一緒?」
「?」
「ほら、その、服装とか……」
……あー。
「可愛い」
「……!」
「いかにもよそ行きっぽいフリフリのワンピース、その青い裾を握る手もちっさくて可愛い。水色のバッグについたデケー赤いリボンもお前らしくて、可愛い」
とりあえず思ったこと全て言ってやったら、北川は照れ隠しにケーキを頬張った。
「わ、苦い」
「それ、俺のだから」
わざわざ自分から遠い位置にある、色も全く違うコーヒー風味のケーキを間違って食べるって……どんだけ動揺してんだよ。
「……やっぱ可愛い」