叢雲 -ムラクモ-
……一週間が経った。

幸い月曜日に北川と登校したのは見られてなかったらしく、坂上先生も何も言ってこない。

岸田はもちろん、北川とも一言も話してないが、これでよかったのさ。

……合ってるよな? 俺。間違ってないだろ?

「……松ちゃん、いい?」

「あ?」

女の声に振り向けば、バスケ部の部長、何度か北川のことを聞いた中沢がいた。

「どうした」

ここは三年校舎だから会ってもおかしくない。それどころか次の授業は中沢のクラスだ。

「……ゆずちゃんのこと」

どこかためらった様子で、中沢はついてきてと歩き出した。

昼休みだから時間はあるが、どこへ行くのだろう。

着いたのは、体育館前だった。体育館の入口へと続く三段ほどの階段に、中沢は座る。俺も従って、その横に座った。

「ゆずちゃん、さ」

こいつと話すのは本当に北川関係ばかりだと思いつつ、黙って話を聞く。

「最近、部活休んでるんだ。こないだ一回だけ来たけど、ボーッとしてたり転んだり、調子悪くて……。松ちゃん、何か知らない?」

「……知らん」

「ウソだ。松ちゃんウソついてるでしょ」

「なんで」

「ゆずちゃんが部活に支障をきたすほど落ち込むのは、松ちゃんがらみの事しかない」

「だから、なんで」

「いじめられてた時だって、部活には出てた。酷い時は休んでたけど……。

あたしさ、松ちゃんからゆずちゃんの事聞かれるけど、ゆずちゃんからも松ちゃんの事いろいろと聞かれるんだよ」

「……なんて?」

「あたし、ゆずちゃんに比べると二年以上松ちゃんと一緒にいるじゃん? だから、昔はどんなだったとかそういうの」

「ふーん……」

だから、どうした。

とは言えなかった。

「ゆずちゃんがあんなにも落ち込むのは、松ちゃんが何かしたからでしょ」

わかっていることを他人から言われるのは、予想以上に腹が立った。

「……お前に何がわかるんだよ」

「え……うん。二人に何があったかはわからないけど、仲直りした方が」

「ほっといてくれ!」

何も知らないくせに、入ってくるんじゃねえ。

俺は中沢を置いて、その場を離れた。
< 23 / 45 >

この作品をシェア

pagetop