叢雲 -ムラクモ-
「……あー、クソ」

完全な八つ当たりじゃねーか、俺。

「答えてくださいよ!!」

職員室の前を通るとき予想もしてなかった大声が聞こえて、俺は結構驚いた。

それが北川の声に聞こえたんだから、尚更だ。

「どこにも書いてませんでしたよ!」

何の話だ?

「どういう事か説明しろよな、坂上先生!」

これは……岸田の声か?

どうやら坂上先生と何か話しているらしい。

俺はことさら何でもなさそうに、職員室の扉を開けた。

職員室に用はないが、北川が大声を出すなんて、何があったか気になる。だろ?

「あ、松村先生」

実は久しぶりに聞く、坂上先生の高い声。

「先生!」

「松ちゃん!」

北川と岸田が走りよってくる。こいつらと話すのも一週間ぶりか。

「あのね、あたしと岸田くん、読んでみたの」

敬語がなくなってることにいささかほっとしつつ、しかし俺はそれを顔に出すなんて情けないことはしない。北川に、自然に返す。

「何を?」

「校則」

「……校則ぅ?」

聞くだけで頭が痛くなりそうなそれを、こいつらは読んだだと?

「おう。教師と生徒が一緒に登校しちゃいけねーなんて、どこにも書いちゃいなかったぜ」

「……岸田、それ本当か?」

「北川も一緒に読んだんだ。北川は部活の時間つぶしてさ、土日もテスト前なのに少しの時間みつけて二人で読んだ。間違ってるわけねえだろ」

それが本当なら、俺は何のために今まで悩んできたんだよ。

「坂上先生」

「……はい」

「どういう事か、説明してもらえますよね?」

予鈴が鳴ったが、誰も教室に戻るなんてアクションは起こさなかった。
< 24 / 45 >

この作品をシェア

pagetop