叢雲 -ムラクモ-
坂上先生の気持ちが発覚したあの日から、俺は北川と岸田も一緒に登校している。

そして数日。俺は職員室である報告を受けた。

「……そうですか」

自分を好いてくれた人がいなくなるというのは少し残念でもあったが、仕方ないだろう。

「あ、先生」

「よお、松ちゃん」

廊下で鉢合わせた北川と岸田に、俺はさっき聞いたことをそのまま伝える。

「坂上先生、学校やめるらしい」

「え、そんな」

悲しそうな表情をうかべた北川と対照的に、岸田は当然だという顔をした。

「ちょうど新しい音楽の先生もくるらしいし。明日からのテストが終わって一週間後の終業式で、離任式もやっちまうんだと。それでさよならだ」

女として気持ちが分かり辛いのかは知らないが、北川はゆっくりとうつむいた。

「生徒同士の恋ならともかく、教師同士は駄目だろ」

そう言う岸田に、じゃあ生徒と教師だったらどうなんだと聞きかけた俺を、誰が責められよう。










「北川」

「ん?」

「夏休み、一緒に海でも行くか」

登校中そう聞いたのは、終業式の前日だった。

「……え、なんで、急に」

予想通りの反応を返す北川に、俺は少し早足になる。

「理由なんか聞く権利は与えてねえ。行くか行かねーか、二つに一つ。はい、あと十秒……九……は」

「い、行くっ! 行きます! ね、岸田くん」

は? と男二人の声が重なった。

「こいつも一緒?」

「俺も行くのかよ?」

「うん!」

一人、辺りにおんぷをうかべながら上機嫌に前を進む北川の背中を見て、俺と岸田は二人そろってため息をついた。
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