叢雲 -ムラクモ-
「これより、離任式および終業式を始めます」
坂上先生が教師をやめるということは噂として広まっていたらしく、誰一人として驚きの声はあげなかった。
その噂に、俺に惚れてたとかそういうことが含まれていなかったのは坂上先生にとって唯一の救いだろう。
「坂上先生、やめちゃうんだね」
寂しげな声をあげる一人の女子生徒。
いつも黄色い声で叫んでいたが、それなりに愛着もあったんだろう。
「みんな、今までありがとう。一年生は半年間しか一緒にいられなかったけど、わたしは楽しかったです。それと先生方、新米の頃は指導してくださり、ありがとうございました」
坂上先生は、もう泣かなかった。
「この学校であったこと、坂上ともみは一生忘れません!」
松村先生、と静かに坂上先生は言った。
「いろいろと、ありがとうございました」
返す言葉が見つからず、俺は細すぎる体を見ているしかなかった。
拍手で我に返る。坂上先生は頭をさげていた。
終業式と教室でさよならの挨拶を終えるなり、北川が俺の手を引っ張って走り出した。
「待て待て待て待て!」
「職員室っ、坂上先生まだいるでしょ!」
「はぁ!? 会ってどうすんだよ!」
「わ、分かんないけど、会わなくちゃ!」
「意味わからん!」
廊下でぶつかりかけた岸田の手まで強引につかみ、北川は走り続ける。今なら校庭百周も夢じゃないだろう。
「き、北川!?」
手をつかまれているからか、岸田の顔はわずかに赤みを帯びている。
「あのなぁお前、手つかまれたくらいで恥ずかしがってんじゃねえよ。見ろ! 俺なんか腕ごとつかまれてんだぞ」
「ものすごく走りにくそうに見えるよ!」
坂上先生が教師をやめるということは噂として広まっていたらしく、誰一人として驚きの声はあげなかった。
その噂に、俺に惚れてたとかそういうことが含まれていなかったのは坂上先生にとって唯一の救いだろう。
「坂上先生、やめちゃうんだね」
寂しげな声をあげる一人の女子生徒。
いつも黄色い声で叫んでいたが、それなりに愛着もあったんだろう。
「みんな、今までありがとう。一年生は半年間しか一緒にいられなかったけど、わたしは楽しかったです。それと先生方、新米の頃は指導してくださり、ありがとうございました」
坂上先生は、もう泣かなかった。
「この学校であったこと、坂上ともみは一生忘れません!」
松村先生、と静かに坂上先生は言った。
「いろいろと、ありがとうございました」
返す言葉が見つからず、俺は細すぎる体を見ているしかなかった。
拍手で我に返る。坂上先生は頭をさげていた。
終業式と教室でさよならの挨拶を終えるなり、北川が俺の手を引っ張って走り出した。
「待て待て待て待て!」
「職員室っ、坂上先生まだいるでしょ!」
「はぁ!? 会ってどうすんだよ!」
「わ、分かんないけど、会わなくちゃ!」
「意味わからん!」
廊下でぶつかりかけた岸田の手まで強引につかみ、北川は走り続ける。今なら校庭百周も夢じゃないだろう。
「き、北川!?」
手をつかまれているからか、岸田の顔はわずかに赤みを帯びている。
「あのなぁお前、手つかまれたくらいで恥ずかしがってんじゃねえよ。見ろ! 俺なんか腕ごとつかまれてんだぞ」
「ものすごく走りにくそうに見えるよ!」