叢雲 -ムラクモ-
ぎゃーぎゃー叫びながら着いたのは北川の言った通り職員室。

誰の了承も得ることなく北川は、俺と岸田もろともずかずかと入りこんだ。

「坂上先生!」

もう帰ろうとしていたのだろう、入口付近にバッグを持って立っていた坂上先生は、北川の声に肩をふるわせて俺を見た。

「……ども」

俺はかろうじてそれだけを口にし、その数秒後には職員室を飛び出し体育館前に来ていた。

俺を放し坂上先生を引っ張ってきた北川は、岸田も放すと両手で坂上先生の手を握り、大きく息を吸った。

「あたし、坂上先生のこと忘れませんから!」

北川以外の俺たちは一瞬呆ける。

「あたしと、同じだから。誰かに恋をして、でもそれは恋しちゃいけない人で、その人の目に自分はうつってなくて、自分よりもその人のことを知ってる人に嫉妬して」

北川の目は、いつかと同じように真っ直ぐだった。

「坂上先生が忘れても忘れませんから、新しい恋……見つけてください」

北川はそれだけ言うと、走っていった。家へ帰ったんだろう。

「……あの子」

坂上先生がぽつりと呟いた。

「あの子だから、松村先生は一緒に登校してるんですね」

「え?」

「……なんでもありません。わたしも帰りますね。さようなら!」

坂上先生は、どこかすっきりした顔で走っていった。

「……なあ」

俺は残された奴に声をかける。

「北川って、好きな奴いたんだな。残念、お前じゃないみたいだが」

さっき北川が言ってたことを思い出して言う。

「……いいんだよ。俺、松ちゃんには負けたくねーし諦めねー!」

「はぁ? なんで俺なんだよ。ま、諦めずに頑張るのはいい事だ。その調子でがんばれ」

「……松ちゃん、鈍い?」

「あ?」
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