叢雲 -ムラクモ-
「よーし泳ぐぜー!」

「ま、待って岸田くん!」

ガキ二人が海で騒いでるのを見つつ、俺はパラソルの下にしいたシートにのんびりと寝転がっていた。

「北川、向こうの岩んとこまで競争な!」

「うん!」

ガキかよ、あいつら。……あ、中学だからガキか。

「あれ、松ちゃん?」

俺の顔を覗きこんだのは中沢で、……は? なんで中沢がいんだよ。

「お前っ……こんなとこで何して」

「海で泳ぎに来たに決まってんじゃん」

さも当然とばかりに答えた中沢は、上半身を起こした俺の横に座った。

「松ちゃんこそ、一人で海? あ、彼女さんとか一緒?」

突然の中沢の登場に、俺は結構ビビっている。

まさか知り合いに会うとは。いや夏の海なんだし会っても不思議じゃないが俺は今北川と岸田も一緒に来てるわけで……まずいぞ、これ。

「あれ、さっきの質問無視? 松ちゃんは泳がないの?」

「……あー、中沢」

「なに」

「こないだは、悪かった」

「……いいよ、別に。松ちゃんもいろいろあったんだろうし。それに今はもう仲直りしてるみたいだし?」

中沢は意味深に目線を海に投げ掛ける。そこには岸田と騒ぐ北川がいた。

「仲直りどころか、かなり仲良くなっちゃったー?」

「待て待て。変な誤解すんなよ、これはだな」

「デートでしょ?」

「……お前にはその横にいる男が見えねえのか。多分あいつらがデートしてんだって。んで俺も偶然、たまたまここにいただけで……」

「和さーん、あとどのくらい遊んでていいのー!?」

「……あんなこと叫んでますけど?」

「……はあ」

どうすりゃいいんだよ。むしろどうにかしてくれ。

「あれ、中沢先輩!」

中沢に気付いたらしい北川と、

「岸田くんも来て!」

北川についてきた岸田がパラソルの下まで走ってきた。

「やっほーゆずちゃん。そしてはじめまして岸田くんとやら」

「岸田くん、バスケ部の中沢ゆりか先輩だよ」

「あ、ども。岸田翔です。北川のダチっす」

北川と岸田は、たとえ知り合いがいようと焦らないらしい。……いや、アホだからどういう事態になってるか知らねえだけか。
< 32 / 45 >

この作品をシェア

pagetop