叢雲 -ムラクモ-
「はあ……」

なんかこの世の中、俺だけが悩んでるような錯覚におちいるよ。

「あ、そういえば中沢」

「?」

「お前は誰と来たんだよ」

「ああ、サークル仲間よ」

「サークル?」

「うん。学校のじゃないんだけど、友達とかと地域でやってんの」

「ふーん……」

知らなかった。

「和さん、あたしたちもう一回行ってくる!」

さすが子供。体力回復も速いもんだ。北川と岸田は再び海へ走り去った。

「『和さん』とか呼ばれちゃってますけど?」

「ほっとけ」

説明するのも面倒くさい。

それ以前に、中沢は全てを知っていそうだ。その上でからかってくるんだからタチが悪い。

効果音にすれば間違いなく『ニヤリ』だろう顔を向けてくる中沢の視線を振り払うように、俺は咳払いをひとつ、

「で、そのサークルってのはどんなやつなんだよ?」

「んー……?」

もったいぶるように、中沢は視線を空へ投げかけた。

「吹奏楽」

誇らしげな中沢の声が、空に吸い込まれるように消えた。

「小規模だけど、今度コンサートもあるんだ。詳しいことは近くなったら連絡するから、ゆずちゃんと一緒においでよ」

「ああ……考えとく」

北川と一緒に、なんて。よく簡単に言えるもんだ。

今回は中沢だから良かったものの、そんときに誰に見つかるか分かったもんじゃねえ。

「じゃ、あたしそろそろ仲間んとこ戻るね。ゆずちゃんにもよろしく」

「じゃあな」

「うん。また学校で」

中沢は立ち上がり、手を振りながら走っていった。

しばらくして帰ってきた北川と岸田は、おわかれが言いたかったと少し落ち込んだ。
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