叢雲 -ムラクモ-
「……ゆず」

そっと包みこむように、後ろから北川を抱き締める。

「え、せ……先生?」

名前で呼ばれたからか、抱き締められたからか……いや両方だろう、北川は困惑した声を出した。

『和さん』も『先生』になっている。

触れ合っている肌は熱い。

「俺、ロリの気はなかったはずなんだがな」

「……?」

「いや、十歳くらいの差なら大丈夫か」

「先生……?」

「今は名前で呼んでろよ……」

太陽は半分以上沈んでいる。

外気に触れている肌は少し寒い。

「俺さ」

「うん……?」

「青って好きなんだよな。海でも空でも、優しい感じがしねえか? 全部包みこんでくれるみたいで……」

「うん……」

伝わってくる北川の鼓動が、少し速くなった。

「お前が今日着てる水着も青だし、俺の好み知ってんのかってちょっと焦った……」

「ん……偶然だよ」

「俺、好きなんだ」

「青が?」

「アホか。違う」

また少し、北川の鼓動が速くなった。

「ガキだガキだと思ってたけど、お前が、す」

「んん、待って」

「……何だよ」

「言っちゃ駄目だよ……」

北川は、自分の前に回されている腕に手を重ねた。

「駄目なの……分かんないけど、それを言っちゃったら崩れる……」

「何が」

「だから、分かんないって……」

太陽はとっくに沈んでいた。

海と空は、深い青に包まれる。

「あたしも、和さんと同じ気持ちだけど……言わない」
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