叢雲 -ムラクモ-
ドクンと高鳴ったのは、俺の心臓だった。

北川に伝わってしまったと思い、ごまかすように腕に力を込めた。

「……」

「……」

北川の肩が少し震えて、嗚咽する気配がした。

片手を北川の頬に滑らせ、水を確認する。

「なんで泣いてんだよ」

「う、嬉しいの。なんか、和さんに抱き締められてるとこから、幸せが溢れてくるような感じがして……」

濡れた青い瞳が、ふわりと笑った。

また心臓が高鳴った。

……耐えられなかった。

頬に触れていた手に少しだけ力を込めて、横を向かせる。

ゆっくりと、その唇に近づいて、

甘いキスをした。

予想以上の柔らかさに一瞬驚いたが、そのままたっぷり五秒。

うすく目を開けたら、慣れない様子で目をつむっている北川を確認した。

横を向いて身動きもとれない上、十分に息もできない状況である。北川が苦しそうに眉を寄せたのはまもなくだった。
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