鈴芽 ~幸せのカタチ~
私の声は届かなかった。
人混みと雑踏に邪魔され、エレベーターは無惨にも閉まった。

『スズ!どうしたの急に?』

『オジサンがいたの。』
『えっ?!オジサンってあの?!』

『あれは絶対オジサンだった。どうしよう、見失っちゃった…。』

せっかく見つけたのに。
悔しい。

『とりあえず、ね、もう時間だから入ろ。
ここに入っていったんなら、ここで働いてるってことじゃん。』

『うん…。』

説明会の内容は何も耳に入らなかった。

今すぐにでもこのビルの中全部を回りたい、

そんな気持ちだった。

説明会がいつの間にか終わった。

『えっちゃん、私ここでオジサンを待つ。
先帰って。』

『え?でもまだお昼だよ。ずっとここで待つの?!
せめて何か食べようよ。』

『でもお昼で外に出てくるかもしれないし、
外回りとかでも出てくるかもしれないし、もしかしたらもう出てて、戻ってくるかもしれない。

とにかくここを離れたくないの。

ごめんね。

先に帰って。』

『…。わかった。』

そう言って、えっちゃんは去っていった。
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