星島物語
雪虫の詩
ー雪虫の唄ー
その昔、幸福な私たちの先祖は、自分のこの郷土が末にこうした惨めなありさまに変ろうなどとは、露ほども想像し得なかったのでありましょう。
 時は絶えず流れる、世は限りなく進展してゆく。激しい競争場裡に敗残の醜をさらしている今の私たちの中からも、いつかは、二人三人でも強いものが出て来たら、進みゆく世と歩をならべる日も、やがては来ましょう。それはほんとうに私たちの切なる望み、明暮祈っている事で御座います。
 けれど……愛する私たちの先祖が起伏す日頃互いに意を通ずる為に用いた多くの言語、言い古し、残し伝えた多くの美しい言葉、それらのものもみんな果敢なく、亡びゆく弱きものと共に消失せてしまうのでしょうか。おおそれはあまりにいたましい名残惜しい事で御座います。
                      
知里幸惠 アイヌ神謡集より
         
雪虫のことは知っている。
その声を聞いたから。
風に翳んでしまう儚い羽音と。
雪虫のことは知っている。
そっと頬に触れたから。
冷たいはずなのに、ほんのりと暖かく、やさしい。
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