よりみち喫茶
喫茶La Pace(ラ・パーチェ)は、オープンから数ヶ月が過ぎても実に静かなものだった。
おそらく、お化け屋敷同然だった建物を、元の形と古びた雰囲気を壊さないように修繕して、中もお店を開ける状態に改装して……なんてことをしていると、あっという間に予算オーバーで、宣伝費を賄えなかったのが原因だ。
かろうじて路地の入口に看板だけは設置してみたものの、ほかのお店のように夜になったら光るわけでもなし、手作り感満載の看板は、今のところ集客に役立つ様子はない。
それでも、一応は存在を主張しているのだから、何も無いよりはマシなはずである。
「お客さん、来ないね……おねえちゃん」
不安そうに扉の方を見つめて、それからこちらに向き直る可愛い弟の頭を、カウンター越しにポンポンっと弾むように撫でる。
「大丈夫!これからだよ。そうだ、何か音楽でもかけようか」
アンティーク調の時計がチクタクと時を刻む音だけが響いていた店内に、緩やかに音楽が流れ出す。
とても古いその曲は、わたしのお気に入りの曲の一つ。