嫁入りの噺
いつも日課の薪拾いは天狐の森に拾いに行く。

あそこの森には上質な木の枝がたくさん落ちている。


でもこれは奏しか知らない。


天狐の森は妖怪や狐が出ると言って、誰も近づかない。
奏は一切そんなこと信じていなかったので、幼い頃からこの森で拾っているのである。

「この森も、もうすぐお別れね…」

そう呟いて木を拾い、顔を上げると、

「え…」

大きな大きな輝くような白い狐が奏を見つめている。

その体はつやつやの毛で覆われており、まばゆいほどに神々しい。

奏は畏怖でその場に崩れ落ちた。

拾った薪がバラバラと散乱する。


すると突然狐が呻き声を上げた。
奏は怯え、尻もちついたまま退く。

よく見ると首元に血が滲んでいた。

奏はそっと立ち上がり、狐の後にまわると、首に矢が刺さっているのを見た。

狐は取ってくれ、とでも言う様にかがんだ。

奏は覚悟を決めると

「お狐様、じっとなさって下さいね」

そう言うと力いっぱい矢を引いた。

血が吹き出し、狐は苦しそうにしたが、その度に奏が着物を破り、拭った。

止血したときには奏の着物はぼろぼろで、胸元も足もはだけ無残な姿である。

この姿で帰ったら男に犯されたとでも思われそうだ…と思って疲れ果てていると、

狐が

『…………』

なにか神々しい声で語りかけるのを聞いた。

すると突然狐は奏を背に乗せると、凄まじい速さで駈け出した。

奏は狐の背なかにしがみついているのに精一杯だった。
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