甘い恋飯は残業後に
「はー……」
店の外壁にもたれると、もやもやを吐き出すようなため息が出た。
原田先輩の態度が不愉快だったこともあったけど、それよりも――何となくあれ以上、難波さんの話を聞きたくなかった。
「……帰ろうかな」
兄貴との約束はきっちり果たした。ここで帰っても文句は言わないだろう。
美桜ちゃんにこっそり荷物を持ってきてもらおうと店の裏口に回ろうとすると、扉が開く時の乾いた木の音がした。
振り返ると、そこにいたのは難波さんだった。
「大丈夫か」
叔父さんからわたしが酔ったみたいだと聞いてそう言っているのか、さっきの先輩の発言に対してそう言っているのか、短い言葉からは読み取れない。
わたしは向き直って、また壁にもたれた。
「まあ、少し、風に当たれたので」
あえて聞き返さず、わたしもどちらとも取れる言葉で濁す。
「夜風ももう、生ぬるいな」
そう言って難波さんは空を見上げる。わたしもつられて見上げると、飛行機が一機、光を点滅させながら飛んでいた。