甘い恋飯は残業後に
何、向きになっているんだろう。別に難波さんがモテようがモテまいが、そんなのどっちだっていいのに。
「やきもちか?」
「……はぁっ?!」
訳のわからない切り返しに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「な……何でわたしがやきもち焼かなくちゃいけないんですか! わたしは事実を言っただけで……!」
言いながら顔が熱くなってくる。
わたしは難波さんから顔を逸らした。
「そこまで必死に否定しなくとも」
「べ、別に必死じゃ……」
「ただ俺は、そうだったらいい、と思っただけだ」
「……えっ」
驚いて、難波さんの方を振り向く。彼は「さてと」と言って、壁から体を離した。
「中入るぞ」
「え……いや、わたし、もう、帰るつもりで……」
動揺していて、今ちゃんと話せているのかすらわからない。大丈夫だろうか。
「今帰ったら、後悔することになるぞ」
「……どうして?」
難波さんはにやりと笑みを浮かべた。
「桑原はここの店のパーティーメニューにしか出てこないデザート、食べたことあるか?」
「ないです、けど」
「びっくりするぞ、うまくて」
難波さんは「ほら、とにかく入るぞ」とわたしの背中を押して、強引に店に戻した。
わたしは背中に触れた彼の大きな掌に、ざわざわと胸がざわめくのを感じていた。