甘い恋飯は残業後に
●振り回さないで
* * *
パソコンの画面から視線を上げ、ふう、と軽く息を吐き出す。見れば、時計はまもなく十九時を指そうとしていた。
「今日もまだ仕事するんですか?」
冷え切ってしまったコーヒーを口にしていると、すっかり帰り支度が終わった水上ちゃんがわたしの顔を覗き込んだ。
「今やってるのが終わったら帰ろうと思ってるよ。大貫課長にも十九時半までしか残業の許可とってないし」
外回りの頻度が減ったことで残業も減るかと思いきや、オフィスにいるならこれ幸いとばかりに次から次へと仕事を回され、結局、状況は以前と何も変わっていなかった。
「みんな、万椰さんが仕事熱心なのをいいことに、気軽に回し過ぎですよね」
「熱心ってこともないんだけどね……」
熱心なんて言われると、どうにも居心地が悪い。
そもそもわたしがここに異動の希望を出したのは、スキルアップの為でも何でもなかった。
“逃げたかった”のだ――あの場所から、どうしても。