甘い恋飯は残業後に
再び、画面とにらめっこしながらマウスを動かす。そろそろ仕事も終わりに近づいてきた頃、わたしはふと視線を感じて顔を上げた。
「――お疲れ」
「わ! お、お疲れ様、です……」
自分の声の反響具合に驚いて室内を見回すと、ここにはわたしと『お疲れ』と言ったその、もうひとりしかいなかった。いつの間に。
「仕事、そろそろ終わりそうか?」
「は、はい。あとは保存して、印刷すれば完了です」
難波さんは自分のデスクに腰かけた状態でこちらを見下ろしている。
そういえば、難波さんと会うのはあの試合の日以来。彼はここ数日、出張で海外に行っていた。
「じゃ、行くか」
「えっ……何処に」
「『ラーボ·デ·バッカ』に決まってるだろ。あの約束、忘れたとは言わせないからな」