甘い恋飯は残業後に
約束とは、叔父さんの店でボトルワインを奢ると言ったことだろう。
もちろん覚えてはいたけど、まさかこのタイミングで言われるとは――。
「……忘れてはいません、けど」
「何だ、歯切れが悪いな。他に予定でもあるのか?」
ここで「予定がある」と言うのは、あまりにも不自然だ。どうにか断れないかと頭をフル回転させるも、なかなかていのいい断り文句が見つからない。
黙っていると、しびれを切らしたのか、難波さんの方が先に口を開いた。
「……単に、俺と飲みたくないってことか」
「いえっ、そうじゃなくて……」
「じゃ、いいだろ。早く終わらせて行くぞ」
強引なところは、相変わらず。
仕方なくわたしは急いで仕事を終わらせ、ロッカーに置いていた鞄を掴んで、難波さんの待つエレベーターホールへと向かった。