甘い恋飯は残業後に
「いや、今日は随分と静かだから。もしかして、体調が悪いんじゃないだろうな?」
言うが早いか、難波さんはわたしの額に手を当てた。
「熱は無いようだが……」
突然の出来事に、わたしは目を見開いたままその場で固まってしまう。わたしの様子で気づいたのか、難波さんは慌てて額から手を離した。
「……悪い。女性の額に気安く触るなんて、失礼だな」
「……い、いえ」
本当に、何の気なしに手が出てしまったのだろう。彼はばつ悪そうに視線をさまよわせている。
「つい、癖で……いや、姪っ子がよく熱を出すもんだから」
……姪っ子?
わたしは、姪っ子と同じ扱いってこと?
へえ。
「何だ、怒ってるのか? 確かに触ったのは悪かったが……」
「いえ。別に怒ってませんから。行きましょう」
怒ってなんかいない。ずっとああでもないこうでもないと考えていたことが、一気に馬鹿らしくなっただけだ。
わたしはすたすたと難波さんを横から追い越し、叔父さんの店の扉を開けた。