甘い恋飯は残業後に


「もちろん意味はそうだけどな、『ラーボ・デ・バッカ』と言えばロマーリオの足技だよ。あのフェイントは何度観てもかっこいいよ、なぁ?」

話を振られて、難波さんは「そうですね」と笑っている。

ロマーリオ? 有名な選手だろうか。わたしはサッカーをよく知らないから、それがどんな人かもわからない。


叔父さんと難波さんは、にわかにサッカーの話で盛り上がっている。すっかり置いていかれたわたしは、モツ煮よりも先にラム肉を口にした。

実は自分でも、この状況に奇妙さを感じている。少し前まではラム肉を見るのも嫌だったのに。今ではこの肉の甘さとわずかな“癖”さえも気に入ってしまっている。


「すっかり、ラム肉にハマったみたいだな」

グラスのワインを飲み干したタイミングで、叔父さんとの話を終えたらしい難波さんがそう言った。決まりの悪さに、わたしは難波さんの方は見ずに「ええ……まあ」と答える。


「ここのラム肉は、本当にうまいからな。無理矢理にでも食って良かっただろ」

勝ち誇ったような声が癪に障る。でも、そのとおりだから否定出来ないのが悔しい。


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