甘い恋飯は残業後に


「この間のデザートだって、おいしい、って本当に幸せそうな顔で食ってたしな。あの時、帰らなくて正解だったろ?」

「そうだ、クレームブリュレ!」


難波さんが店の外でわたしに話した、パーティーメニューにしか出てこないデザートというのは、アールグレイのクレームブリュレだった。

表面のパリッとしたカラメルを割ると中はふわりと柔らかく、口に入れるとあっという間にとける。後に残ったのはアールグレイの濃厚な、それでいて全く嫌味のない香り。


「あんなにおいしいのに、どうして普段から出さないの?」

わたしのグラスにワインを注ぎながら、叔父さんは困ったような顔をする。


「普段出すにはいろいろと手間なんだよ。だから、あらかじめ個数が分かっているパーティーメニューでしか出せないんだ」

「そうなんだ……でも、残念だな。いつでも食べたいのに」

わたしががっかりした声を出すと、叔父さんは難波さんのグラスにもワインを注ぎながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


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